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2024.05.28 インタビュー

【インタビュー】林業15年目|㈱樹工舎 佐藤社長の想い「15年やっていても、やっぱり林業は楽しい」

林業歴15年の大ベテラン、佐藤富一さん。個人事業ではじめた『樹工舎』を法人成りして、2022年に『株式会社樹工舎』を設立されました。
樹工舎で働く魅力は、何といっても【個人の考えがきちんと尊重される、融通の利く環境】。従業員の「自分がなりたい理想の木こり像」に向けて、資格や仕事内容などを柔軟に選んでいきたいと話す佐藤さん。
ホテル業界から林業業界へと転職をした異色の経歴を持つ佐藤さんが、一体どのように会社を立ち上げ独立していったのか。林業に飛び込んだきっかけから今後の展望まで、詳しくお話を伺いました。

 

「林業をやりたい」という思いが、強く残っていた

――佐藤さんは、林業歴はどれくらいになりますか?

佐藤富一さん(以下、佐藤):35になる歳に岡山に来て、今年51になるので、ちょうど「丸15年」ですかね。

――15年ですか!この業界ではもう大ベテランですね。

佐藤:いえいえ、まだまだですよ。一生勉強ですから。

――たしかに。ちなみに林業のお仕事に就かれる前は、佐藤さんはどのようなお仕事をされていたのでしょうか?

佐藤:都内でホテルマンをしていました。接客業ですね。ホテル自体は何件か渡り歩きましたが、今ちょうど林業歴がホテル歴を超えそうなところです。20歳から35歳までホテルマンをしていたので。ホテルで培った「言い回し」「提案する力」「敬語の使い方」とかは、林業でもだいぶ役立っています

ホテルマン イメージ

――そうなんですね。具体的にはどのようなところで役立ったと感じますか?

佐藤:未経験からいきなり林業をやっていたら、お客様の懐に入り込める力が今ほどなかったんじゃないかなと思いますね。ホテルで多種多様なお客様と会話をしてきたぶん「お客様にちょっと踏み込める力」が、接客業として身に付いたんだと思います。なので、林業でお客様と会話をしているときに「ホテルマンの経験が役立っているな」と感じますね。営業活動にも役立っていると思います。

――なるほど。佐藤さんは、どのようなきっかけで林業のお仕事を志したのですか?

佐藤:もともと、自分の子どもたちをキャンプとか自然の中に連れて行くことが多かったんですよ。昔から自然が大好きだったので。
それで、今いる岡山に来るにあたって「漁業をするか」「林業をするか」で悩みまして。農業に関しては、自分にはあまり向いていないかなと思っていましたのでね、性格上(笑)なので、漁業か林業の二択で悩んだときに、私は漁業だと船酔いをするので、選択肢が林業しか残っていなかったんです。
あとは、私の妻の実家が山を所有していたものですから、最終的にその山も手がけていけたらなという思いもありました。ですので、将来的な仕事としては「林業」ほぼ一択でしたね。

――そうなんですね。当時は引っ越す前に、林業のことを調べたりしましたか?

佐藤:岡山県に引っ越すことがわかってから、ちょうど今住んでいる高梁市の林業会社に勤めたいなと思っていました。でもそうすると、求人がなかったんですよね。なので「緑の雇用」とか、そういった林業関連の就職を斡旋する団体があって、そこに直接電話をかけました。そこから森林組合に「面接をしてもらうように段取りを取ってもらえませんか」と直談判しましたね。
それから森林組合に話がいって、森林組合のほうから私に連絡が入ったという感じです。面接の日程が決まって、ホテルの勤務後に新宿から夜行バスに乗って、岡山の倉敷まで来ました
それで倉敷の駅でスーツに着替えて、森林組合の事務所まで行って面接を受けましたね。面接で採用していただけるということだったので、そこで5年間勤めました。

倉敷駅

――最初は森林組合さんで経験を積まれたんですね。

佐藤:そうですね。草刈機も触ったことがなかったですし、チェーンソーも当然扱ったことがなかったので。実は私、はじめは草刈機やチェーンソーを持たせてもらえなかったんですよね。「危ない」ということで。草刈機を触らせてもらえたのは、だいぶ時間が経ってからですよ。当時はまだ資格を持っていなかったものですから、森林組合も作業者に怪我をされたら困りますからね。
なので、私は最初は「大鎌」を持たせてもらって、それを振りたくって、草刈機の人たちが刈りきれないところを刈って寄せるという作業をしていました。

――実際に木を切ったり草刈機をやるようになったのは、何年目くらいからですか?

佐藤:数ヶ月くらいですね。いつまでも大鎌だけでやっていても、森林組合も厳しいと思うので(笑)なので、草刈機をやるまでの期間は数ヶ月くらいですよ。
私は5月から森林組合で仕事を始めたのですが、6月から緑の雇用がスタートするので研修に行かせていただいて、そこで草刈機の免許を取ったんですよ。なので、林業を始めてから1か月〜2か月後くらいにはもう草刈機に触らせてもらっています。研修は1日〜2日ほどかかりましたかね。
緑の雇用は3年間ほど行かせていただいて、5年目には「フォレストリーダー」とかの講習があると思うのですが、それは森林組合ではなく別の会社で行かせていただきました。次に勤めた会社ですね。

――なるほど。緑の雇用は、同期の方とかいらっしゃいましたか?

佐藤:はい、います。私の代で、多分30名くらいいたと思います。今は「フォレストワーカー」という呼び名になっているじゃないですか。私はその1期生なんです。それまで「緑の雇用」と呼んでいた部分があって、それも確か1年間受けているんですよね。
それで翌年になったら制度が変わるとかで、もう1度受け直してという感じでした。少しうろ覚えですが。そのときの同期が、たしか30名くらいだったと思います。

――沢山いらっしゃいますね。佐藤さんは、はじめ「道具」や「服装」などをどのように手配されたのでしょうか?

佐藤:私たちのときは、チェーンソーズボンがまだ義務化されてなかったんですよね。なので、近所で売っている作業服と、あとはヘルメットを被って作業していましたね。チェーンソーは森林組合が無料で貸し出しをしていたので、それを貸してもらっていました。お金を取られるとかではなかったです。
ただ、何年か経ったら出来高制に変わっていったんですよね。そのときに一回「自分でチェーンソーを用意してください」と言われたので、組合から補助してもらってチェーンソーを買ったような気がします。

――森林組合でもチェーンソーの販売や整備などをやっていらっしゃるんですか?

佐藤:いや、してないですね。森林組合から借りていた頃は、道具の調子が悪くなったら自分で代理店などに持っていってお金を払って直してもらう感じでした。
ただやっぱり修理代がかかるので、なんとか自分で直せないかなと思って、いろいろ機械を全部バラしてみたりもしましたね。あとはもうパーツだけ買ってくればいいので。

――なるほど。当時はどこのメーカーのチェーンソーを使われていたのですか?

佐藤:森林組合から借りていたのはスチールでした。出来高制になってから私が個人的に買ったのは、ハスクバーナーとゼノアです。切捨ての定性間伐などが多かったので、40ccクラスのチェーンソーと、50ccクラスのチェーンソーで2台使っていました。

――メーカーは好みで選ばれましたか?

佐藤:そうですね。他にハスクバーナーを使っている方がいて、あれって独特のエンジン音があるじゃないですか。あれが仕事してる感がものすごくあって好きで、それで買いました。

――そうなんですね。林業に関しては、森林組合さんの方で一通りは経験したという感じでしょうか?

佐藤:そうですね。ちょうど私たちの班が「何でも屋さん」みたいな班だったんですよ。素材生産や、支障木、草刈り、造林、苗植えも全部やります、という感じで。それが逆に良かったんですよね、一通りの経験ができたので。
他の方たちは「造林は造林」「素材生産は素材生産」っていう形のところが多いじゃないですか。それをまとめて全部できたのが良かったなと思います。

――特殊伐採やロープワークなどは、そのときはまだ経験していないですか?

佐藤:私は、森林組合に在籍してるときくらいに個人事業主を立ち上げたんですよ。支障木っていうと失敗が許されないから、ベテランさんじゃないですか。ただそうすると、いつまで経っても自分では切れないので「誰に責任を負わせるわけでもなく、仕事をやろう」と思ったら、自分で仕事を取ってくるしかないと思ったんです。
それで今の『樹工舎』を個人事業主で立ち上げて「支障木を承ります」という感じで、お仕事をいただいたりしました。

――すごいですね。個人事業主を始めた当時は、どのように営業活動をされましたか?

佐藤:自分のホームページで募集したりとか、ご近所さんから「これ切れる?」と依頼を受けたりもしました。あとは、林業関係者(緑の雇用の同期)が依頼をくれたりとかもありましたね。
当時は、岡山県では木に登って木を切る「特殊伐採」自体があまりなかったんですよ。なので「木に登って枝を落としてほしい」というちょっとしたことでも、お声をかけていただくことが多かったんです。

――木に登る技術やロープワークは、自ら習得したのですか?

佐藤:いえ、まずは研修しに行きました。長野県の『アーバンフォレストリー』さんのほうに。吉見さんという方に、自分でコンタクトを取りました。そうしたら「研修があるので受けてみてください」というので、研修を受けに行った感じですね。
実はその前に、吉見さんの本も買って拝読していたんです。「アーボリストとは?」という内容の本です。それをきっかけに研修を受けに行きました。

――その研修の「期間」や「内容」はどのような感じでしたか?

佐藤:私が受けた研修は、たしか3泊4日だったと思います。研修は3段階くらいあって、第1弾は「入門編」のような感じでした。第2弾は別日に、また3泊4日くらいでありましたね。ロープで250kg以内の荷を吊る方法とか、それをゆっくり降ろすテクニックを身に付けたりとか。第3弾が、250kg以上の重い物をロープで安全に降ろす技術を学ぶ、という流れだったと思います。

――きちんと段階を踏んで学べる研修なんですね。

佐藤:そうなんですよね。受講者は造園の方とかも結構いましたよ。逆に、林業の方は少なかった印象です。ですが「林業で食べて行くと決めた以上は、やるしかない」と思って、とりあえず自分が出来ることを動き回りました。岡山に来たときはすでに子どもも3人いたので、もう必死でしたね。

――「岡山でホテルマンをやる」という考えはありませんでしたか?

佐藤:そうですね。実は、森林組合を辞めようと思っていた時期がありまして。そのときは「ホテルマンに戻ろうかな」と思ったこともありました。
ですが「森林組合を辞めて、その先どうしようかな……」と考えているときに「そういえば、高梁市には他に林業会社がないんだった」ということが頭によぎったんです。
「森林組合を退いてしまったら、遠くの地域から高梁市まで林業に通わなければならない。それは現実的に無理だ」と思い、またホテルマンに戻ろうかと思ったんですよね。
ただやっぱり「林業をやりたい」という思いが強く残っていまして……。

――なるほど。林業は続けたかったんですね。

佐藤:はい。純粋に楽しかったんですよね、林業の仕事が。それでふと、ハローワークに行って林業の仕事を探してみたら、高梁市の隣にある「新見市」という所に林業会社があったんです。車で20分ほどで行ける距離でした。
こんな所に林業会社あるじゃん!」と思って、ハローワークの人に「自分で直接社長と話をしたいので、コンタクトを取ってくれませんか」と持ちかけました。それでその日の内に面接をして、それで新見の会社に転職することになりました。

――ものすごい行動力ですね。同じ林業業界での転職は珍しいと思うのですが、佐藤さんはどうお考えですか?

佐藤:林業業界はこう見えて、意外と狭いですからね。「誰があの会社を辞めて、どこに行ったのか」という情報は、ほとんど筒抜けになると思います。ですが私が転職したときは、そういう横のつながりとかは考えていなかったですね。「林業を続けたい!」という気持ちが強かったので。
本当は森林組合を辞めた時点で会社を立ち上げれば良かったのかもしれませんが、もう少し自分に技術を付けたいというのがあったので「転職」という形をとりました。
ですので、新見の会社には「私は個人事業主として、支障木や薪の販売などもやっています」「将来は法人として会社にしたいと思っています」という所まで、すべてお話ししました。それでも良ろしければ雇ってくださいという感じで、最終的に雇っていただくことになりました。

――なるほど。転職先の林業団体さんは、大きな組織だったのですか?

佐藤:いえ、私が入社したときの従業員は、私を除いて「3人」しかいませんでした。家族経営の会社だったんです。正直な所、入ったときは「失敗した」と思いましたね(笑)
人間関係がどうこうではなく、重機がボロボロだったんですよ。まともに動く機械があまりなかったというか。
でもそこからですね、社長がどんどん新しい機械を刷新していって、今はだいぶ機械の数も増えましたよ。15台くらいあるんじゃないですかね。従業員も、私が入社して半年後くらいから「ドドドッ」と一気に増えました。今は12〜13人ほどいると思います。一気に環境が変わりましたが、私はここで8年ほど勤めました。

――そこから「独立しよう」と思ったきっかけは何だったのでしょうか?

佐藤:自分の年齢のこともありますが、本当はそこで5年くらい勤めたら法人成りするつもりだったんですよ。ただそのタイミングで、社長だった方が会長になって、専務だった方が社長になったんです。その社長が体調を崩してしまって「今は辞められない」という状況になってしまい、3年間プラスして勤めたんですよね。45歳には起業を目指していたので、それはだいぶ過ぎてしまいました。

――そうだったんですね。個人で起業したいというのは、最初から決めていたんですか?

佐藤:決めていました。個人事業主を立ち上げた時点で、法人成りするのはもう視野に入れていましたね。やっぱり林業をやる以上は、自分ですべて決めて、仕事も取ってきて、自分のスタイルでやっていきたいなという部分を、きっと誰もが持つんじゃないかなと思います。
できるできないは別として、林業業界の方たちって「自分でこうしたい」というこだわりを持つ方が多いじゃないですか。私も同じように「人から雇われるより、自分でやりたい」という思いがあったんですよね。

――たしかに、佐藤さんは独自のスタイルを確立していますよね。

佐藤:林業はやっぱり「職人」の世界ですから、自分が技術を持っていないのに独立はできないですからね。仕事ができなければ独立しても上手くいくわけがないので、自分の技術力をどんどん高めていこうと思っていました。ですので、独立するまでの間はひたすら切磋琢磨していましたね。その甲斐もあって、独立してからお仕事が途切れたことは一度もありません

従業員の方と信頼関係を持ちながら、柔軟な仕事環境を作っていきたい

地上25m程の木のてっぺんからクライミングでインコを救出した時の佐藤社長

――次に、樹工舎の働き方についてお伺いします。現在は、年間を通じてどのようなお仕事を受けているのでしょうか?

佐藤:「高梁川」という一級河川の1部分を、年に2回草刈りしています。あと「おかやまの森整備公社」という所があるのですが、そこを入札で取ってきて、機械を動かしているという形ですね。あとは支障木や、薪の販売もしています。これが大きな軸になりますかね。
とくに支障木はいつ入るかわからない仕事なので、それだけだとやっぱり事業的に厳しいんですよね。なので重機を動かしながら素材生産もやって、支障木が入ったら重機を止めてという感じですね。

――樹工舎では、重機をどれくらいお持ちなんですか?

佐藤:重機はそうですね、今はフェラーバンチャと、ウインチ付きのグラップル、3.5トン積みのフォワーダ、6.4トンのユニック付きトラック……。

――それはすごいですね!かなり思いきった購入だったのではないですか?

佐藤:もう必死ですね(笑)中古でもかなり高いですから。ですが素材生産をやるとなれば、機械がないと話になりませんからね。次はプロセッサーを買おうと思っているのですが、それだけの重機を一人で抱えていても仕方ないので、従業員の方の尽力が必要なんですよ。1台だけ動いて、あとの重機は全部止まっていますから。

――そうですよね。悪天候で現場に行けない日は、薪の生産などをやられているのでしょうか?

佐藤:一応、そのつもりで薪小屋を建てたんですよ。雨が当たらないように。そこで薪の乾燥もさせてるんですけども、晴れた日に原木を持って帰ってこないといけないじゃないですか。タイミングが合わないんですよね。結局、晴れた日に薪割りをしているみたいな感じになってしまったので、もう今は雨が降ったときは経理の仕事をしています。銀行関係のことをやったり、まぁ雑務ですよね。あとはチェーンソーのメンテナンスとかに費やしています。

――従業員の方が入ってこられても、雨の日は今のスタイルでやっていく感じでしょうか?

佐藤:そうですね、従業員の方が入られたら、またスタンスを変えていこうと考えています。たとえば常に薪をストックしておいて、いつでも小屋の中でチェーンソーで切ったものを割るというシステムにしたりとか。2人いれば、私がちょこっと現場を抜けても仕事ができると思うので。ただ、新人さんを一人で山に残しておくわけにはいかないので、時期が来たらの話になると思います。怪我でもしたら危ないのでね。
あとは雨が降っていてもできるロープワークを教えたりとか。ただ本格的な資格については、外部機関に研修を受けに行ってもらって、しっかりと技術を身に付けていただきたいですね。
なので雨の日は、そのような感じで少しずつ仕事内容をシフトしていければ良いなと思っています。

――従業員の方が入ってきたあとの「1日のスケジュール」は決まっていますか?

佐藤:多くの林業会社で「8時には現場に行って始業したい」と考えると思うのですが、ものすごく離れている現場に8時に着くとなると、たとえば6時に会社に集合して出発する形になるじゃないですか。あまりにも早いとちょっと私も億劫なので、現場までの距離に応じて集合時間を変えていきたいと思っています
近い現場なら7時くらいに集合して、8時には始業できるようにしたいですね。遠い現場でも、集合は6時半が限界じゃないかな。朝の集合が早いときは、帰り少し早めに帰ってくれば良いかなと思います。従業員の方と信頼関係を持ちながら、臨機応変に対応していきたいですね。

――現場までは、社用車で移動しますか?

佐藤:基本はそうですね。樹工舎には軽トラと軽バンが1台ずつあるんですが、支障木のときはロープとかの道具を濡らしたくないので、軽バンで現場に向かいます。山の中で素材生産をするときは軽トラで行きますね。作業内容に合わせて、軽トラか軽バンのどちらかに乗って現場に行く形になります。
あと当然、従業員数が増えたら車の台数も増やすつもりです。なので従業員の方は「自分の車を軽トラにしないといけない」というのはまったく考えなくて大丈夫です。ただ、山に行くので、免許はマニュアルが望ましいですね。スタックしたときに怖いので。

――お休みの日は「土日」に固定される形でしょうか?

佐藤:正直な所、いきなり土日を全部お休みにするのは難しいんですよ。ただ日曜日は当然全部お休みです。実は私、昔は日曜日しか休みがなくて、日曜日も休めないなんていう日もあったくらいなので、日曜日は全部お休みにしたいんですよね。
なぜ日曜日も仕事に出ていたかというと、森林組合にいたときは日当だったんですよ。なので極端な話、梅雨の時期なんかはお仕事ができないとお金にならないじゃないですか。出勤日の内の10日間も雨に降られちゃったら、日当だと死活問題なんですよ。
とはいえ、雨の日に無理して現場に出るのはやっぱり危ないですからね。視界も足元も悪いので。とくに重機で山を滑ったりすることとかを考えると、自分の体を傷めてまで出勤するのもどうかなと思うんです。
ですが、やっぱりどこかで補填しないといけないですよね。生活があるので。それで私の場合は、日曜日に当てがうようにしたんです。

――なるほど、そういうことだったんですね。

佐藤:ええ。ただやっぱり、従業員の皆さんには同じ状況になってほしくないんですよ。大変なことは自分が1番よくわかっているので。なので、日曜日はお休みしてもらって全然構わないのですが、土曜日は隔週休みでスタートしてみようと思っています。なぜなら「平日にお休みしたぶんをどこかで補填したい」となった場合に、隔週の土曜日にお仕事を入れてもらえれば、日曜日は確実に休めるので。
当然月給制にするつもりなので、月6日休みと仮定した場合に、月24日出勤してもらえれば1ヶ月分のお給料も問題なく出せますしね。お休みや出勤日の融通は、他より利くほうだと思いますよ。6ヶ月後には有給もスタートしますし。相談しながら無理なくやっていきたいですね。

――なるほど。ちなみに、長期休暇はどのようになりますか?

佐藤:年始からいくと、GWはお休みです。あとはお盆ですね。詳しい日程は応相談ですが、基本的にはカレンダー通りになると思います。年末年始のお休みが始まる日は曜日によっても変わってきますが、12月30日〜1月3日くらいまではお休みの予定です。
その辺は、一般的な林業業界と同じ感じだと思います。特別多くも少なくもないという感じですね。

――なるほど。初めて林業業界に入られる方への「道具」や「作業服」の貸し出しはあるのでしょうか?

佐藤:そこを、実は悩んでおりまして。というのも、道具や作業服はなるべく支給したいと思っているのですが、以前1名採用したときに全部支給して、早々に辞めてしまったことがあったんです。そのとき手元に残った道具類を見て「今後どうしようか……」と悩んでいたんですよね。林業業界は給料もそれほど高くないので、道具類はなるべく会社のほうで支給したいと思っているのですが、はじめからこちらが全部与えても良いものなのか、正直悩みどころではあります……。

――お気持ちわかります。私も林業を始めた当初はしんどさも感じていたのですが、道具類を全部自分で揃えたこともあって「これは辞められないぞ……!」という思いがありました。

佐藤:そこなんですよね。何でも用意すれば良いというわけではないと思うんですよ。それが今回、私が学んだことなのかなと思いますね。
なので最初は、ヘルメットは高いのでこちらで用意するんですけれども、あとは足袋とか、作業中に身に着けるものですね。作業服っていうんですか。この辺も追々は、従業員の方が慣れてきたら一緒に相談しながら、会社のかっこいい作業服を作っていきたいなと思ってるんですよ。

――いいですね!ユニフォームのような感じで。

佐藤:そうですね。ただし、従業員の方が定着しない段階で作ってしまうと、次の方にサイズが合わなかったら使えなくなってしまうのでね。やっぱり最初の作業服は用意していただけたら嬉しいですね。足袋とか。ズボンはサイズがあると思うので、チャップスはこちらで用意します。

――用意する作業服に決まりはありますか?

佐藤:全然何でも良いです。動きやすければジャージでも良いですし。なので、特別用意していただくのは、足袋と、手袋と、雨の日用の長靴くらいですかね。
ただ専用の長靴はちょっと高いので、そこはやる気を見せてもらう意味でも、ご自身で購入してもらえたらなと思っています。

15年やっていても、やっぱり林業は「楽しい」

――実際に林業のお仕事に携わっていて、林業の「魅力」や「苦労」などをどのような部分に感じますか?

佐藤:私が感じたのは、15年やってきて、やっぱり林業は「楽しい」ということですね。自分より遥かに年輪を重ねた大木を倒すのは、やっぱり面白いです。私は伐倒が一番面白いですね。重機も楽しいことは楽しいのですが、チェーンソー1本で大木を倒して、倒れた瞬間なんかはものすごく感動します。本当に、大地の恵みに感謝ですよ。それでご飯食べさせてもらっているんでね。もう感謝しかないです。

――本当にそうですね。

佐藤:なので、原点って言うんですかね、もちろん文明の力に頼る部分もあるけれども、やっぱり林業は腕1本でやっていかなくちゃいけない部分もあるわけで。「現在」と「過去」が融合したみたいな職業だと思っているんですよ、林業は。若い方たちも、スマホやパソコンにすごく詳しい人もいると思うんです。そういう方たちが「高性能林業機械が面白い」というのであればそっちの分野で活躍してほしいですし、ロープを使って特伐がやりたいというのであれば、そっちのほうで活躍してもらえれば良いと思うんですよ。
林業は自然と一緒に、日頃得られないような体験を直に感じられる職業だと思っているので、そういうところは「やっていて良かったな」と思いますね。

――たしかに、普通に暮らしていたら経験できないようなことを、林業のお仕事ではやっていきますよね。

佐藤:そうですね。でも職業病だと思う事がありますよ。例えば伊勢神宮とか神社仏閣には凄い木が多く育っているじゃないですか。「これどうやって伐ろうかな?」って考えちゃうんですよね。「ここだと倒せないしな」とかね(笑)

――わかります(笑)それでは佐藤さんは、林業は基本的に「楽しい」という感じでしょうか?

佐藤:そうですね、林業に対しては「楽しさ」のほうが大きいですね。
あえてデメリットを言うのであれば、雨で動けない日が多いと給料に直結してしまう部分があるところですかね。林業の事業体の社長さんたちは、一番頭を悩ませるところだと思います。やっぱり従業員にも雇用側にも生活があるし、せっかく勤めていただいている以上は潤っていただきたいですからね。
なのでその辺は、従業員の方が何とか仕事を覚えて伸びてくれるのであれば、チェーンソーのメンテナンスの技術を教えたりとか、雨の日はそういった部分に費やしても良いのかなと思っています。「稼ぎたいのに稼げない日がある」というのは、林業のデメリットかなと思いますね。でも逆に言うと、デメリットはそれくらいだと思います

――なるほど。ちなみに従業員の方が、林業以外の時間で副業をするのもOKですか?

佐藤:全然OKです。怪我だけはしないようにしてもらえれば。むしろ、雨の日が続いたりしたら副業せざるを得ない状況もあるでしょうしね。こちらが無理やり拘束することはないです。本来であれば、林業の技術を高めて、林業一本で生活できるレベルまで給料を押し上げていかないといけないんですけどね。ですがどの業界も、そこはなかなか厳しい部分もあるんじゃないかなと思います。
なので生活するうえで足りない部分においては、ご自身で副業として何かしら獲得する「努力」をする方のほうがすごいと私は思いますよ。「給料が安い」って愚痴を言う方もいますが、時間があるなら副業したらどうかと私は思います。これは林業業界に限らず、どの業界に行ってもそういう考えでいたほうが良いと思いますね。

――佐藤さんは、ご自身の『樹工舎』という会社を、今後どのように発展させていきたいと考えていますか?

佐藤:今は私が一人で動いているので、まずは従業員の方が継続して長く勤務していただく環境を築いていきたいなと思います。そのためには、当然仕事を切らさないようにする必要がありますし、なおかつ「機械に乗りたい」という方には新しい機械をどんどん刷新していって、新しい機械が古くなったらまた新しい機械を入れてというように、どんどん循環していきたいですね。そうすると「やりがい」も生まれてくると思いますし、重機もいろいろ経験できると思うんですよ。あとは、班をいくつも持ちたいなと思います。

――それはいいですね!

佐藤:とはいえ、まだ1班もできていないんですが……(笑)
だいたい、重機って1班に5台くらい必要じゃないですか。それ×3班とかあれば、15台くらい重機を用意する必要がありますよね。
それと支障木班がいて、なおかつ私は「無駄にしている資源」を活用したいんですよね。なのでチップにも力を注ぎたいなと思っています。ストックヤードなんかも広い所を用意しないといけないと思いますし、そういった部分まで拡張していきたいなと思っています。

――なるほど。事業はどんどん大きくしていこうという感じですね。

佐藤:もちろんです。従業員の方と一緒に作り上げていくということになると思うんですけども、なかなか進まないかもしれないし、従業員の方が定年を迎えても「全然進んでないじゃん!」と言われてしまうかもしれないですが(笑)そういうビジョンは持っています。
正直、新しいことを始めるのに楽な道はないじゃないですか。大変な思いをした人間があとで勝ち取れる喜びというものは、そのときに頑張らないとわかりませんから。そういうことを一緒に経験したいなと思いますね。

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